女教皇

『千夜一夜物語』

アラビアのおとぎ話

昔々、サーサーン朝に、シャハリヤールという王がいました。

彼は、亡き父の領地を弟のシャハザマーンと2つの王国に分け、思いやりを持って正しく治めていたので、民草に慕われておりました。

弟のシャハザマーンとは親友のように仲が良く、頻繁にお互いの宮殿を行き来していました。

いつものように、シャハリヤール王がシャハザマーンを宮殿に呼び寄せました。

しかし、やって来たシャハザマーンはとても塞ぎ込んだ様子です。

シャハリヤール王がその理由を尋ねると、シャハザマーンはこう答えました。

忘れ物を取りに戻ったところ、妻が奴隷と浮気をしているのを目撃し、2人の首を刎ねて殺して来たのだと。

更にシャハザマーンは、兄の妻も奴隷たちと浮気をしているのを目撃してしまいます。

その事実を確認したシャハリヤール王は、妻と奴隷たちの首を刎ねて処刑しました。

それからというもの、シャハリヤール王は、大臣に命じて、毎夜処女の若い娘を連れて来させ

、寝床を共にして夜明けになると（裏切られる前に）処刑するのを繰り返すようになりました。

それは3年に渡って続いたので、国中の若い娘がいなくなってしまうほどで、大臣は困り果てておりました。

ところで、大臣には2人の美しい娘がおりました。

心労ですっかりやつれてしまった父の姿を見て、姉のシエラザードは王の愚行をやめさせるために、結婚を志願することにしました。

彼女がシャハリヤール王の寝室に参上する夜がやってきました。

床入れが済むと、彼女は妹のドニアザードと最後の別れをさせて欲しいと王に頼み、寝室へと招き入れました。

事前に言い含めていた通り、ドニアザードは、姉に物語をねだります。

シエラザードは王の許可を得て語り始めました。

古今の物語を熟知しているシエラザードの心地良い語り口に、王はすっかり聞き入ってしまいました。

夜明けが来たので、シエラザードは口をつぐみました。

けれども話は半分しか終わっていません。

続きが気になるシャハリヤール王は、彼女を生かすことにしました。

そうして、シエラザードはさまざまな物語を語り続けてクライマックスを迎え、遂に1001夜を生き延びたのです。

その間に、子供も産まれていました。

シャハリヤール王は彼女を正妻にすることを誓い、再び元の思いやりに満ちた君主に戻りました。

シエラザードが語る物語から、もう一度愛を学んだのです。

彼はこの教訓を弟のシャハザマーンにも伝えました。彼もまた全てを許し、妹ドニアザードと結婚しました。